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今回最も完成度の高い作品だと思ったのが本作。既存の松の木を避けて南北に長い雁行したボリュームを置く。玄関庇と1階の勾配屋根、2階のボックスといった、異なる論理でできた衝突するエレメントが無理を承知で接合されながら、しかし全体としては低く抑えられたプロポーションもとてもよい。内部では架構の向きや角度が視線と歩みを自然と奥へ奥へと誘導し、かつ衝突する部分で視線と姿勢の向きを変えさられる、ちょうどその場所にキッチンや階段などの居場所の設定がすっと滑り込む。あるいは視線を遮らないために鉄骨階段にしたところ、必要になったH鋼梁と対をなす華奢な鉄骨柱は少し離れてダイニングとリビングを柔らかく分節し、アルミサッシュのリズムと同化していく。そうやってすべてのエレメントがそれぞれの論理を持ちながら互いに距離を保ちつつ関係しあっており、その衝突がディテールとして解決されるのだが、その特殊さゆえにディテール自体がまたエレメント化していく、という循環の中にある。概要文ではそれを「不整合のまま組み立てる」と書いてあるがやや正確ではないように思われる。ここには不整合が不整合のままであるための完全に整合した精密な設計があるのであり、それがシンプルな空間に複雑な豊かさをつくりだしているようにみえるのだ。もうひとつ。もしこの方法によって、局所的なエレメントとその適切な判断の束で建築ができているとしたら、ある程度局所的なドライブがあったり急な要望の変更があっても、やはり適切な判断のもとでは全体の質は変えずに建築が可能なはずである。現代では、ひとつの形式や構成であらゆる条件を満たすことはほとんど不可能であることは自明であり、それゆえに予め不整合さを内包させておくこのようなアプローチは有効に働くと思われる。
(西澤 徹夫)
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旧家の外庭だった土地が売地となり、既存の樹木の保存利用が建築計画と一緒になったプログラムとしてスタートした。敷地内の既存樹木の伐採を極力少なくし、建築が可能なエリアを見いだしフットプリントを定めながら、その土地がつくる微気候との対話が聞こえてくるデザイン。住宅に必要な土地を分割してもらい、その敷地以外の売地にあった伐採予定の樹木も移植して、かつてこのエリアの景色をつくった樹木の活用が図られた。
ゼロエネルギーやパッシブデザインによる環境共生型の建築計画が求められる現在、この家は保全した樹木を活かして、どのように自らの住まい方の魅力を近隣に伝えられるか、将来的に土地利用が進む隣接地の計画にも、大きな影響を与えられるくらいの『美の基準』となって、エリアの風景が受け継がれていくための最良の規範となる『マナー/ルールブック』づくりへの挑戦でもあるように感じた。それこそがこの住宅のこの場所での役割ではないかと思う。
木造の慣習に縛られないで、設計者曰く『不整合に見える建築的な納まり』も規矩準縄を駆使して新しい秩序をつくる試みが設計者の信条として展開されて完成した空間は、内・外の風景をつなぎ、住み手の日常を豊かに、生き生きとしたものにしてくれるように働くことが込められた。時の積み重ねの中で培われる命(ひとと植物)の交流の大切さが味わえる。保存・移植した樹木がその場に根づき、建物を守るように寄り添ってくれる風景が、この建築にはできるかもしれない、そのことが一番のパッシブデザインなのかもしれないと、この先に見えてくる風景を想像するのが楽しくなる。
(山本 和典)
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