南松山の住居愛知県豊橋市 |
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敷地の東側には、交通量の多い幅約30mの国道があり、南方には川も見られる。川はこのあたりが狭窄部となっており、近年だけでも2度の氾濫があり、近隣の建物は床上・床下浸水にあっている。住宅は国道に隣接して並行に建てられ、また一見住宅とは違う建物にも見える。資料だけではわからなかった部分が現地に行くことで理解できた。 国道と河川、先ずこの2つの課題について対応がなされた。交通量の多い国道に面する1階は壁として開口部を設けず、それに代わり、2階に全面幅の連窓を設けている。音に対しては距離を保つことも対策になる。内部空間では、国道側に650mm幅の耐力壁を配置し、そこからさらに1520mm幅の「通り」を設け、道路と居室部分の距離を持たせている。また「通り」の上部は吹抜けとし、上部から1階に光を取り込んでいる。1階の床のレベルは、氾濫の履歴を参考にして通常より高く設定されていた。 また温熱環境に対する取組みもなされている。屋根断熱には遮熱シート+高性能グラスウールを300mm、壁面は遮熱シート+高性能グラスウール220mm、東面の開口部には外付けブラインド、基礎断熱にして冬用エアコンは床下に吹き出し、夏用エアコンはロフト上部に設けている。他にも日常使いに加え、災害時に自立して発電できる太陽光発電設備を導入し、設備、給排水・ガス・電気等の設備に対しては、目立たない位置に露出配管としてメンテナンスを容易にしている。 このように様々な課題に対応しながら、回遊型のプラン、将来間仕切が容易な架構など、機能的なだけではなく空間的な魅力も随所にも感じることができた。家族6人の成長に伴い、安心した暮らしができる家になっている。さらに設計者は不確実な未来に対し、他用途の使われ方も視野に入れた“融通無碍な器”としての建築を目指したと言う。今日的なテーマに取組みながら、魅力ある建築へと昇華しているところを評価したい。 (森 哲哉) |
地域の浸水歴から建物の床高さを決定させたということで、高床の躯体基礎が外壁の木質材と対比されるように、基盤としての低層部を形づくっている。玄関アプローチとなる階段部は、ローコストな素材の特性を大事にして、コンクリートブロックとモルタルだけで、左官の職人技を活かして丁寧に仕上げられ、むしろ時間をかけた高級な質感がつくり上げられている。設計者でもあり、工事全体を差配する現場監督としての立場も担い工事全体をコントロールして、国道沿いの立地に倉庫のような事務所兼自宅の建築が出来上がった。 将来的な家族構成の成長と変化に応じられるユニバーサル空間として、2階の就寝スペースは、現在は間仕切りもなく、まるで大部屋の合宿所のような佇まいである。もちろん子供たちの生長に応じた個室化対応も準備されていて、備えは柔軟である。玄関、トイレ、浴室以外には建具が一切なく、2層構成のワンルーム空間が、2台のエアコンを夏冬で使い分け、1台の稼働で全館空調を実現させる温熱環境づくりに挑んでいる。長手東西面の外壁の内側にリブ耐力壁が配置されるペリメーター部には、吹抜けやスリット床で空気の通り道をつくり、効率的に家全体で気流循環を生み出す仕組みが設われている。日射の影響を大きく受ける東面の開口部には、外付けのブラインドが小さな軒下に巧みに組み込まれて、日射負荷の低減(夏季)・日射取得(冬季)にも有効に機能している。地球沸騰の猛暑となる近年の気候変動への対応として、団らんの場となる1階の共用部(リビング・ダイニング)へは、冬季用の1階のエアコンを適切な冷房モードで稼働させて、床下を冷やして冷輻射の床面をつくる試みが講じられた。温度実測による効果検証に向けてデータ取得されていて、有効な手法となるエビデンスへとつなげて欲しい。 建物周辺、外構まわりでは、パッシブデザインにつながる、土・緑・水・風の複合的な活用による環境づくりに視点を向けて、生態系を呼び寄せる『小さな森づくり』への展開が期待されます。設計者がテーマにしている地域への貢献にもつながるはずです。 (山本 和典) |
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