House&Office SH 在と材と財と庫

愛知県名古屋市南区
 本計画は、愛知県名古屋市で約50年続く工務店の新事務所兼住宅である。計画の最大の特徴は、施主である工務店が代々倉庫に抱えていた大断面の在庫木材を、構造材や仕上げ材として最大限に活用した点にある。これらの木材は不均一さなどから、構造材としての利用が難しく使用されずにいた。
 設計では、この在庫木材をブレース(斜材)の役割で構造材として再利用している。在庫木材の長さや形を極力残したまま使用し、部材ごとに角度が異なるため、3D座標をもとに特注の取り付け金物を製作し、微妙な反りを手加工で調整して設置された。ブレースは太く材質の存在感も含めて空間に大きな印象を与えているが、垂直設置ではないがゆえに、大黒柱のような中心性をもたらすものではなく、どちらかと言えば倉庫の中で立てかけられた無造作な印象が住宅の中に持ち込まれている。この斜材は、生活のじゃまにならないよう丁寧に位置が配慮され、前面道路からの透明度が高い内部空間で、通りからよく見える事務所から奥の住居の空間までを緩やかに分節している。構造的な効果と視覚的な分節効果を同時的に満たすため、位置の検討には労を要したことが推察される。
 本計画では事務所から住空間までが空間的にひとつながりとなっているが、住居部分は5つの高さを持つスキップフロアで構成されており、天井と建物の奥行きによって、自然と領域を感じさせている。時にクライアントの子どもが事務所スペースで遊ぶこともあるそうで、家族の生活が事務所空間の直近まで来るさまが、クライアントの生活感とよく合致し、まるで倉庫の中に暮らすかのような、おおらかな印象を与えている。
 さて、本計画は各所に眠る在庫木材の使途を示す普遍的な解決策となりえているかと問われると、どちらかと言えば、クライアントの生活像や生業との結びつきを良く読み解いた特徴ある解であると評されるにふさわしいと感じられた。 (生田 京子)
 敷地のある周辺は、住居、店舗、小規模な事務所や町工場などが混在する地域、評者はこの地域に少々土地勘があり、西側の通りに並ぶ商店が今より活気があったころを覚えている。現在グランドレベルでは、シャッターが閉まっているところが多く、この地で50年営む工務店として、計画にあたり地域のまちづくりに対する意思表示をしたいと希望されたそうだ。また工務店の倉庫には、樹種が不明で様々な長さや断面を持つ木材が溢れかえっていたと言う。敷地の脇には親世帯が暮らす旧事務所、その奥には、在庫木材が眠っている倉庫がある。
 与えられた敷地は、間口3.63m、奥行22.88m。そこに工務店事務所兼子世帯の暮らしの場を計画している。職住一体の場合、1階に店、2階に住、あるいは前面に店、壁を隔て奥に住を設けるケースが多いが、ここでは前面の店と奥の住の空間を緩やかな分節にとどめ、閉店後も暮らしの気配を街に伝えている。奥行方向の透明感を出すために、内部空間の短編方向に耐力壁を設けず、在庫木材を斜材として活用しながら各空間を緩やかに分節している。
 設計者の意図は現地に行き体感できた。在庫木材そのままの形状と材長を極力生かしているため、必ずしも構造的に求められる架構と断面ではない。たとえば、店と住の分節には、大断面の木材が使われていた。これまで出会ったことのない空間だと感じさせられた。
 在庫木材の選択、構造体と空間分節の関係が丁寧にスタディされているのが見て取れた。さらに仕口、納まり、建て方などの技術的な課題をクリアして破綻がない。外部から見える吹抜空間に浮遊する木材は、もはや建築的な表現を超えている。クライアントの木材への愛情とまちへの思い、建築家の情熱と力量なくしては成し得なかったと思う。 (森 哲哉)
主要用途 事務所・住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
83.05㎡
建築面積
40.99㎡
延床面積
68.73㎡
設計者 1-1Architects一級建築士事務所
施工者 平田建築株式会社

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