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周囲に大きくスペースを空けながら交通量の多いロードサイドに案外こじんまりと建つ。大きな一枚の屋根と、1.5間モジュールで分節された外観は、さらに大きさと高さの異なる窓、木製換気窓、透明波板、鉄骨柱などの部材が極めて即物的に取り付くことでさらに小さなスケールに落とし込まれているように感じられる。このことに明確な説明はなかったが、いくらでも改変が可能であるようにみえる自由さのようなものは内部空間のそれと呼応しているし、また視線を移動させ、「読ませる」外観になっている。しかしそうであれば内部が反転した外部の小さなポケット空間の外構との関係やさまざまに使い倒せるようなアイデアや憩いのスペースなど、凸凹した外観にもっと生活が、楽しさがまとわりつくような工夫はなかったか。そして最も惜しいのは、重要なコンセプトであったはずの外から中の作品を見る視点が、実際にはガラスの反射によってとても見づらいことであった。窓と影をつくる屋根形状の関係にはさらにもうひとつ配慮が必要ではないか。そうでなければ断面のアイデアに終わってしまうだろう。
(西澤 徹夫)
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障害をもつ人々のアート制作のアトリエとギャラリーを併設した施設である。建築の力によって多様性と可能性を社会に開き、その存在を可視化する意義深い実践といえる。ギャラリーとアトリエを同時に成立させるための構成は巧みであり、外壁に向かう「アトリエ壁」と、中心に設けられた「やぐらセンター」の構成によって明快な断面秩序が生まれている。制作という「閉じたい行為」と、展示という「開きたい行為」という相反するアクティビティが建築の主題となり、その均衡を探る関係性が空間の特性をかたちづくっている。交通量の多い県道沿いという条件のもとで、外部に大きく開くことが難しいという制約を抱えながらも、内部に静かな集中の場が創出されている。閉じたことで、機械による環境制御が前提となる以上、設備計画は建築とともに統合される必要があるだろう。また、ギャラリーの視認性は、作品と社会をどう結ぶかという建築の意志に関わる問題でもあり、多面的な断面の工夫が求められるところである。空間の随所に置かれた時計は、時間が社会性であるかのように印象的であり、時間の概念が時計に依存するしかないとすれば、建築空間は再び「時間の流れ」を内在化することができるのであろうか。
(金子 尚志)
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本作品は、障がいを持つ人々のためのアート制作アトリエとギャラリーを兼ね備えた、小規模ながらも豊かな立体構成をもつ建築である。約120㎡という限られた面積の中で、利用者が安心して制作に集中できる「閉じた場」と、地域に活動を発信する「開かれた場」という相反する要素を巧みに両立させている点が高く評価される。
「アトリエかべ」は、個々の特性に応じた幅をもつ1人用の作業空間として設計され、自閉症などの特性を持つアーティストにも落ち着いた制作環境を提供している。さらに、利用者ごとに道具や画材を整理・保管できる棚システムを一体的に計画することで、制作の連続性と心理的な安心感を生み出している。中央の「やぐらセンター」は、スタッフ空間の上部を倉庫として立体的に活用し、その外周を展示パネルとして構成。外部からも作品が垣間見える仕掛けにより、内部の活動が地域へ自然に開かれている。また、地域の人々が立ち寄れるギャラリー兼ワークショップ空間を設け、交流の場を創出している。
地域に根差した障がい者支援施設の需要が高まる中で、本作品は「個と社会」を結び直す建築として、今後のあり方を示す意欲的な試みである。
(生田 京子)
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| 主要用途 |
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社会福祉施設(障害児通所支援事業(放課後等デイサービス)
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| 構 造 |
木造
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| 階 数 |
地上1階 |
| 敷地面積 |
847.79 ㎡
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| 建築面積 |
146.91 ㎡
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| 延床面積 |
119.20 ㎡
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| 建築主 |
特定非営利活動法人 響愛学園 |
| 設計者 |
有限会社 大建met
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| 施工者 |
株式会社 アイタック
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