愛知県名古屋市の西山商店街は、1960年代に西山団地造成に合わせてつくられたが、老朽化しシャッター街化しつつあった。これに対し、商店街理事長、建築家、大学教員が立場を超えて協力、大勢の大学生のDIYや自主施工協力を得て、6年間をかけ四つの建物の改修を順次完成させた。新たなニーズの発掘と文化的な発信により、商店街は活気を取り戻しつつある。
建築空間の特徴は、いかに小さな主体を様々な形で参画させる形となっているかにある。ニシヤマナガヤは、1階に3つの店舗(焼菓子屋、珈琲専門店、花屋)が入り、それぞれが全体空間に対して小さなブースを持ち、ホール空間は3店舗の客が相乗りで使用している。それぞれ個性を持ちながらも境を作ることなく共存しており、そのことにより賃貸料も安くなる仕組みともなっている。2階には設計事務所とキッチン付きレンタルスペースがあり、美術教室などが定期的に開催されている。コトづくり研究所は、奥に主に料理教室として使われるキッチンラボ空間があるが、その外側をぐるりと曲線状に不思議なシェア空間が囲んでいる構成で、アーケード側では受付やちょっとした弁当を売るなどのカウンター、奥に続く細長い空間は普段は町の人が気軽に入ってきても良いし、キッチンラボと連続させてのイベントにも対応可能と、こちらもまた、様々な主体がケースに合わせて活用できる空間構成が特徴である。その他、裏道沿いの小さな倉庫をコンバージョンした未完美術館と、子どもたちの宿題や交流の場となるアットホームな駄菓子屋水都軒といった、収益だけに依拠しない文化的な場が内包される。建物がオープンするごとに新たな動線が生まれ、回遊性が高まった。多くの人々を巻き込みながら共につくる過程を通して、商店街に新たな活気を生み出すことに成功している点が評価される。
(生田 京子)
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西山商店街は名古屋市の東部に位置し、1961年に西山団地の開発に合わせつくられた。評者は幼少期のころ、開発間もない1960年代に、この近くの知り合い宅に何度か遊びに行ったことがあり、宅地開発が行われた丘陵地に住宅が点在する光景を今でも覚えている。郊外型の商店街は、高度成長期の開発に合わせ各地につくられた。当時は、徒歩や自転車などで行ける距離にあることが必要であったが、やがて自家用車で品揃えの多い大型商業施設に出かけるという生活スタイルの変化があり、衰退に向かうことになる。また近年はインターネット上で購入、自宅に商品が届くようになったことも追い打ちをかけている。
応募者は、名古屋市中心部に古くからある円頓寺商店街が再生する姿に触発され、ここに拠点を置き、自ら事業者として再生に取組むことになる。とても勇気のある行動である。先ず、2019年に「ニシヤマナガヤ」を、1階に焼菓子屋、珈琲専門店、花屋が、2階に設計事務所とレンタルスペースが入る。翌年その裏にある既設の倉庫をコンバージョンした「未完美術館」を、2023年には商店街の角地にあった水都軒を裏に移設し、翌年空いた角地に「コトづくり研究所」をオープンさせた。低予算であることを逆手にとり、周りの人を巻き込みながらDIYを駆使し、地域住民と学生と専門家の協働作業による空間づくりが行われた。
商店街はもともと利便性の高いところにつくられてきた。また対面販売を基本としてきた特徴もある。かつては日用品の購入を目的とした身近な存在であったが、時を経て、過ごす、交流する、学ぶ、といった場に変わりつつある。そんな地域に根差した存在だと感じさせられた。
(森 哲哉)
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