豊橋市立つつじが丘保育園

愛知県豊橋市佐藤5-16-2
 敷地は住宅地にありながら、小学校、児童クラブ、公園、福祉センターが隣接している。0・1・2才の乳幼児を対象とした保育園として、中庭を諸室が囲む中庭型の造りにより園児を見守る。特徴として、中央の「みんなのニワ」、円環状の半屋外空間として「さんぽミチ」、地域とつながる小さな「かくれニワ」、という性格の違う三つの屋外空間を持つ。屋内空間だけではなく、土、風、雨、暑さ、寒さを、自然に感じて欲しいという意図がうかがえる。また、木造園舎は子どもたちが触れるものとして、構造材には国産の桧や唐松を、仕上、建具、家具には東三河産材を採用している。
 外観は、低く抑えられた深い軒が印象的であった。エントランスホールを抜けると「みんなのニワ」を囲む「さんぽミチ」に出る。室内に廊下は無く、諸室を移動するためにはこの半屋外空間を歩くことになる。またこの「さんぽミチ」は十分な幅があり、全天候型の遊びの場にもなっている。豊橋という比較的温暖な気候を踏まえた提案である。訪れたのは9月中ごろ。深い軒が日差しを遮り、心地よい風が感じられた。一方ちいさな屋外空間の「かくれニワ」の活用については、具体的な説明が難しいようであった。可能性を秘めている空間として今後に期待したい。
 この施設は、学生チャレンジコンペによるもので、保育士とアドバイザー建築家との意見交換、エスキースにより企画設計を、次に設計事務所と共に基本設計と実施設計をまとめ、工事監理者と発注者、学生と共に現場監理をという流れで行われた。建築を志す若者に公共建築の意義やプロセスを実感してもらいたいという行政の意図を高く評価したい。現在の公共建築では、実績の乏しい若者の参加は叶わない。もちろん経験や実績は重要ではあるが、若者や新規参入者により、変革が起きることも歴史を見れば明らかである。 (森 哲哉)
 豊橋市による学生チャレンジコンペでは、一次・二次審査を経て、114組の提案から5組の学生案が選ばれるチャレンジ①を経て、ここから5つの学生案が、審査員かつアドヴァイザーである手塚貴晴氏、学生コンペとは別に選定された設計者、保育士による『磨き上げ』のための助言を受けて、案をブラッシュアップさせる二か月間のチャレンジ②に挑み、最終審査で、『風土の中のさんぽミチ』が選ばれた。チャレンジ③では、実務設計にも参画して、計画案を練り上げることに深く関わり、施工段階でも建築の質を高め、基になったコンセプトをしっかりと看守る役割を担って建築の実現に寄与した。この学生参加のプロセスを推し進め、支えた豊橋市の試みは非常に意義のある取り組みとして評価したい。
 実務経験のない学生の武器は、コンセプチュアルな発想そのものと言えるが、0才から2才までの乳幼児のために、『みんなのニワ、さんぽミチ、隠れニワ』というキーワードを紡ぎ出し、視線の通る開放的な空間づくりの骨子にした。回廊形式で中庭を囲み、真壁構法での木造の提案は、実務設計者を悩ませることとなった。必要な耐力壁を確保するために、中庭と保育室の透明性(どこからも中庭を視認して共有できるガラス張りの空間)を崩して壁で塞ごうとする実施設計案は、アドヴァイザーの手塚氏からも強い叱咤を受け、学生の原案を死守することが求められた。
 現地審査での、設計者からの最初の説明に、主玄関の隣に配置されたガラス張りの厨房(調理室)を指して『食育』のためという言葉があり、これから展開される空間に大いに期待感が上がりました。『食育』は、食物の実りの基となる生態系との関わりや気候・風土ともつながり生活科学と直結する、学びの本質が一杯詰まった概念であるからです。これに学生が提案した『みんなのニワ、さんぽミチ、隠れニワ』がどのようにつながっていくか、設計者が学生からのバトンをどのように体現させたか、まさに見どころと決めていた空間づくりの成果を体感したかったが、それぞれの空間は、乳幼児たちの『三つ子の魂』に強く響き、鮮やかな印象を心に刻む『場』へと残念ながら昇華されていませんでした。
 木造の真壁構法は、配線配管の処理を設計段階でしっかり納める計画をつくり、現場では施工者と共に、乳幼児のための生育空間として、その人格を軽視することなく、木造の架構の美しさを損なわない機械設備・照明計画や衛生的で肌ストレスのない温熱環境をつくり上げて欲しかった。豊橋市・保育士の方たちと共に、今後の継続的な環境づくりへ、設計者・施工者が挑戦してもらえるよう、審査員一同の願いを込めた中部建築賞であります。 (山本 和典)
主要用途 保育所
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
1,832.7㎡
建築面積
895.32㎡
延床面積
907.16㎡
建築主 豊橋市
設計者 株式会社 藤川原設計
(建築計画提案者)
名古屋工業大学大学院
施工者 (建築工事)
青山建設株式会社
(電気工事)
株式会社影山電機商会
(管工事)
三河設備工業株式会社

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