AND PLUS 'SHARE'OFFICE+COFFEE

愛知県名古屋市西区那古野1-19-4
 現地に到着してすぐ設計者による周辺の街歩きが始まった。大都市の喧騒に隣接する閑静な住宅地だが、古い町並みのなかに廃れた建物も目立つ。しかしこれらを保存したり新たにリノベーションしたりしての活用も増えているという。本提案はそんな街との関係を十分に考慮されたものであった。2.5間×10間の細長いボリュームが既存の町並みに控えめに挿入されて建つが、内部空間は過剰なほどに饒舌で、しかしそのやり過ぎなほどの高い精度のディテールの総量こそが内部空間の雰囲気の質を決めている。RCラーメンと内部の木造床は、本来の趣旨である街・耐火構造と木造・更新性という対比的な構成で解くことも可能だが、金物や家具のディテールを媒介として驚くほど渾然一体となっている。内部はいたってシンプルなスキップフロアだが、深い奥行きのために浅い角度で視線が上下へ抜けていく。また、抑えた立面や避難の考え方に街との相互依存的なアイデアが生きており、施工計画に至るまで完成度の高さを示した。 (西澤 徹夫)  建築における木材活用は時代の要請であるが、都市の中で「本物の木の空間」を成立させることは容易ではない。名古屋市西区那古野に建つAND PLUS “SHARE” OFFICE + COFFEEは、その問いに思索的に応答した建築である。クライアント自身がシェアオフィスとカフェを積極的に運営する事業者であり、建築が地域の社会的装置として機能することを明確に意識している。現地審査において、設計者がまず建築の説明よりも那古野のまちを案内することを選択したことは、この建築がまちの文脈を深く読み解き、計画されたことを示している。木密地域における防火性能と木造文化の共存をめざし、まちのありように正面から向き合った設計思想の現れと感じた。RC造の外壁フレームを先行し、木造の床組を挿入する構成は構法とともに考えられ、スキップフロアによって、「住吉の長屋」より少し大きい敷地に多層的な広がりを生み出している。素材への偏愛と深い理解によって、木材、鉄をはじめとしたモノとディテールによる緻密な設計は、数百枚にも及ぶ施工図によってひとつひとつのエレメントが空間として結晶している。
 この建築は、木造を単なる素材選択としてではなく、まちの更新装置として位置づけた点に意義がある。時代の要請をこえ、まちの記憶を内包しながら新しい公共性を創出する木造復権の姿が、ここに具体的な形態として示されている。 (金子 尚志)
 魅力が静かに詰め込まれた建物、これが訪れた際の第一印象である。熟達した設計者と発想豊かな施主の協働により、空間の器から細部の表現、さらにはプログラムに至るまで、多層的に語りかけてくる建物である。那古野地区は名古屋でも歴史的町並みが残る数少ないエリアであり、設計者は木造住宅密集地の延焼リスクに向き合い、ロ準耐火建築物1号として設計を展開した。長手方向のRC外壁を防火帯とし、顔料を混入して墨色とすることで、外部では町並みに溶け込み、内部では落ち着きと重量感を醸し出している。性能を確保しつつ空間的魅力を高める設計姿勢には妥協がなく、その細やかさは枚挙にいとまがない。内部にはヒノキ無垢材による木造架構が組み込まれ、黒皮鉄、スギ板型枠のリブ陰影、煉瓦、木材のサンダー仕上げなど、多彩な素材表現が重なり合う。人の手の痕跡と温度が空間全体に滲み出し、防火・構造・意匠が高次元で融合したこの建築は、歴史ある町並みに調和しつつ、秀逸な発想に基づく作品である。 (生田 京子)
主要用途 事務所+店舗(カフェ)
構  造
鉄筋コンクリート造+木造
階  数 地上1階
敷地面積
110.41 ㎡
建築面積
80.11 ㎡
延床面積
254.79㎡
建築主 エイコーHD株式会社
設計者 有限会社 無有建築工房
施工者 株式会社 千田工務店

一つ前へ戻る