福井厚生病院福井県福井市下六条町201 |
|
撮影 川澄・小林研二写真事務所 |
||||||||||||||||||||
|
この病院は、病院とは思えない外観をしている。この外観は、ここで働く人たちとの長い期間をかけた基本設計のなかで作り上げられたものであった。市街地から田園風景の中に点在する既存集落へ向かう往還の入り口に位置し、地域に根付く形として、雪洞をモチーフにした外観は、内部の明快な平面構成とも関係づけられ、さらに外観の経年変化も受け入れられている。基壇型が多い急性期病院とは異なり、急性期から回復期を担う病院機能の1つの形として、一見病院とは感じさせないこの外観は好感が持てるものであった。 病床の計画は、急性期、回復期の患者さんの状況に合わせた機能性を感じさせるものであり、ベッドコントロールによって病床環境に変化を加えるなど、この病院オリジナルのものとなっており、運用に対して建築計画が呼応していた。さらに、トップライトには環境に配慮した工夫がされており、その効果については今後も引き続き設計者・施工者がかかわりながら検証していく必要があるものの、十分に評価できるものであった。 病院は、多人数多職種が働き、効率性が重視されると同時に、患者さんの療養環境を両立させる必要がある。そのため、病院の方々と、設計者、施工者が議論を重ねて出来上がるもので、病院ごとに独自性が強くなる。この建築ではそれぞれの立場で丁寧に計画を積み上げてきたことが伺えた。 なにより、「患者さま・利用者さま・ご家族のみなさま そしてわたしたちが幸せになる」という病院の理念が、この建築を通してスタッフの確保にもつながっていることは、地域に対する持続可能性を高めることに寄与しており評価に値するものである。 (櫻木 耕史) |
福井厚生病院の新築計画は、地域医療の再構築を建築的に具現化したプロジェクトである。北陸・福井の厳しい気候条件と豊かな自然環境を背景に、施設は分節型構成を採用。アメーバ式ゾーニング手法により、センター化された医療部門の独立性と柔軟な拡張性を両立させた。各部門は箱型ボリュームとして積層され、隙間空間には自然光・通風・眺望を取り込むオープンエンドな廊下や談話スペースが設けられ、地域の風景との連続性を確保している。 特筆すべきは、地域特有の積雪・結露対策として導入された融雪ルーバー(特許取得)や光ダクトによるパッシブデザインである。これらは環境負荷低減と室内快適性の両立を図り、持続可能な医療建築のモデルを提示している。また、角丸形状の外観・内装は、視認性・安全性・心理的安心感を高めるとともに、地域住民—特に高齢者—に優しい空間を提供する。 地域との関係性を重視した計画も秀逸である。売店併設のパン工房やギャラリー空間は、病院を地域交流の場へと拡張し、医療施設の社会的役割を再定義している。設計段階では医療従事者との継続的な対話を通じて、現場のニーズを空間に反映。スタッフエリアのラボ的構成や照明計画に至るまで、働きやすさと誇りを醸成する設計が施されている。 地域の自然・文化・医療課題に対する建築的答えとして、機能性・環境性・社会性を高次元で融合させ、地域性への深い洞察と空間的応答が高く評価され、中部建築賞にふさわしい作品であると評価された。 (道地 慶子) |
|||||||||||||||||||
|
|
|||||||||||||||||||