肥田の家

所在地 :岐阜県土岐市
 21.84m×4.55m×3.621m(桁高)の檜の羽目板で覆われた直方体の上に1.57m の庇を出した二寸勾配の切妻屋根が載るという極めて端正な構えをもった住宅である。内装は2.95mの高さに平らな天井が張られていて長方形断面のトンネル状の空間を形成している。その内面が檜練り付けの合板と檜の縁甲板で仕上げられている。単純であるがよく絞り込まれた建築的操作がこのボリュームを彩のある住空間に仕立てている。一つ目の操作は屋根に二箇所ガラスの帯を入れて三つの領域に分節すること。
 最初の分節は外部のガレージにも供される庇空間と内部を分けている。二つ目の操作として床に15センチの段差を二箇所設けている。奥に向かって降りてゆく空間のドラマを演出している。床の段差によって、居間・食堂のまとまり、台所と夫婦の書斎のまとまり、そして洗面所と寝室の三つのまとまりが生まれている。先のガラス屋根の帯は床の段差とズレて、第二のまとまりの中間にある。床面と天井面の微妙な分節に重ねて、家具による明確な空間分割が行なわれている。家具は天井に達っせず、空間の連続性が保たれている。連続と分節が幾重にも仕掛けられ、生活空間を緩やかに分離しつつ一つにまとめている。
 こうしたミニマルな住宅は時として住み手の生活とずれてしまうことが往々にしてあるのだが、ここはその例ではない様だ。町の中心部で商いをされていたご夫婦が一線から退かれ、老後を楽しまれるために建てられたと伺う。休日には仲間と山歩きを楽しまれている。中央の台所と夫婦の書斎のまとまりに、それぞれの居場所をもたれている。孫がこられた時は家具の上の屋根裏的な場所が彼らの寝室として活躍したそうだ。必要なものが全てここにあり、不要なものはここには一切無い。なんと美しい生活かと感嘆する。建築と生活が緊張をもって一体化している時間の流れに羨ましさを感じた。
(大野 秀敏)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
木造
階  数 地上1階
敷地面積
767.92㎡
建築面積
125.41㎡
延床面積
99.37㎡
設計者 吉田夏雄建築設計事務所
施工者 株式会社 井上工務店

一つ前へ戻る