第52回 中部建築賞 入選・入賞 作品選評

審査総評
 中部建築賞の審査の過程は、事務局に寄せられた応募書類を審査委員全員で詳細に検討して現地審査に付する作品を20作品程度選考することから始まる。本年度は一般部門がAB合わせて36点、住宅部門53点の応募を頂いたので、ここで2割強に絞り込まれたことになる。各作品に一人の審査員を割り振り、運営委員の協力を得て10月と11月の2ヶ月をかけて実地で拝見する。現地審査が終了したところで委員会を開催し各審査委員の評価を報告する。その後全員での討議を経て受賞作を決めた。
 建築賞の大きな目的は、優れた建築を顕彰することによって、専門的見地から優れた建築とは何かを示すことにある。中部建築賞がきちんとした評価を毎年継続的に出すことによって業界からも市民からも信頼を得ることができる。しかしこれは、言うは易く行うは難し、である。今年の選考でも悩ましいことになった。入賞と入選にスパッと分けられれいいのだが、入賞確実な案と入選が妥当な案の間に数点の作品が残った。なるべく多くの作品に入賞を授与すれば多くの建築家を勇気付け高い質の建築の価値を多くの市民に知ってもらうことに繋がる。一方、入賞を増やすと中部建築賞の価値が下がりかねない。悩ましい選択になり投票に付し入賞が少ない側になった。
 こうした議論の困難さの原因の一つは、建築は多様で多面的な評価がなされるものであり、良い建築とは何かと百人の人に聞けば百通りの答えが返ってくるところにある。それを克服するにはいくつかの方法がある。
 一つは評価の方法である。現地審査をした委員の意見が影響力をもつことは当然なので、できれば複数人行けるとより安定した評価ができる。しかし中部建築賞の財政状態では一件の現地審査に一人の審査員しか派遣できない。ところが、今年度はコロナ禍のなかでオンライン審査にせざるを得なくなった。これが結構うまくでき委員会旅費が節約できた。審査体制を拡充する可能性が出てきた。
 もう一つは応募枠の設定の再検討である。現在は、住宅と非住宅の大規模、小規模の三部門であるがこれが本当に社会の要請に対応しているのか。環境技術に特化した建築や、リノベーション建築など今後の日本の建築を考える際に欠かせない建築の応募枠を設けることも必要ではないか。愚見では伝統を誇る中部建築賞が今後も発展でするための検討課題ではないかと思う。
(大野 秀敏)

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