17.尾高高原の家

尾高高原の家

所在地 :三重県三重郡
 終の棲家の諸室が「居間兼寝室の和室」、「食堂」、「浴室等水廻り」と機能と共に3つの二間四方強の均等なスペースにまず分節され、分節された3つのブロックの配置は菱形の敷地形状と既存の樹木への配慮とから、正三つ叉の形状が選択されています。この三つ叉の交差部の「土間」と名付けられたスペースは、3つのブロックに対してそれぞれに、和室を上座とする接客の場、食後の語らいと憩いの場、風呂上がりの一服の場と、多面的な顔を見せる場として対応させることに成功しています。図面や写真が語る分かり易さもさることながら、慎ましくも清楚な表情に好感を持ちました。
 さて、「旧字源−旧漢字でわかる漢字のなりたち−青木逸平著」の書評で、池澤夏樹氏は <「学」と「栄」、上の部分は同じに見えるが、本来は「學」と「榮」、まるで違うのだ。前者は「両手でささえられ交わる場所、つまり学校」であり、後者はたいまつを組み合わせた篝火」であり…> 手書きの手間を省くためとは言え <…文字をいじることは伝統を断ち切ることである。簡体字の制定は正しかったのか。…失われたものは大きい気がする。…> と記していました。
 「創造の場」、「交流の場」、「送迎の場」と名付けられた外部スペースが完成から日も浅く未完成であったにしても、「異なる性質をもつ内部と外部が土間を介して」なされる交流が、いかなるものかが想像しづらい印象を土間から受けました。「主出入り口」や「土間」は、日本人が他者や外部と対面し共生する為の礼儀作法や境膜の場としての「設(しつら)い」でもあり、簡体字と同様に、建築言語が建築空間へのリテラシーを失ったまま使用されることのないよう、それらが「設い」としてひと工夫あればと思いました。その実力が当該設計者には十分に備わっているはずです。
(車戸 愼夫)
主要用途 専用住宅
構  造
在来木造
階  数 地上2階
敷地面積
619.74u
建築面積
90.85u
延床面積
96.24u
設計者  岡本一真建築設計室
 プリヤデザイン
 一級建築士事務所
施工者  株式会社 上村工建

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