審査総評
 今年は公募段階で53(一般)、32(住宅)で、総計85と昨年より減りました。原因は住宅の26減で、住宅の応募者が昨年の55%になったということです。それに伴って、昨年、私が書きましたように住宅ジャンルの人のレベルが著しく高いといったことが、逆に普通に戻ってしまいました。これは非常に残念です。「緑縁の栖」のように昨年と同様のかなりハイレベルのものや、少しリノベーションの要素も入った「工場から家」や、「覚王山の住宅」が印象に残りました。特に古い集合住宅の中にたった2枚の壁を入れて、こういう空間構成があるということを見せてくれた「覚王山の住宅」は高い評価に値すると思います。
 一般では「田園オフィス」の空間のインティメイトな所が良いと思いました。空間の方向性、構造、照明のあり方等、設備、特に天井の照明の方向等、もう少し要素を整理すればもっと良くなると思いました。
 「一宮市尾張一宮駅前ビル」のような駅ビルなのにヒューマンなスケールが溢れている物や、個別でも書きましたが「八事交番/八事山興正寺参拝者駐車場/興正寺公園」の建築家のこだわりがとても印象に残りました。二つとも後で、大組織の人だと聞いて、こういうこだわりが大組織の人達の中にどんどん芽生えると良いなと思いました。「北沢建築工場」の構造設計者の稲山正弘さんは、木造の切れ味はいつも名前が書いてなくても、これは彼だと思わせる力強さと繊細さがあります。この構造家と協働する時は、かなり勉強をして、自分を入れないと誰の設計がわからなくなってしまう怖さがありますが、一度仕事をご一緒したいと思っています。「長野県立こころの医療センター駒ヶ根」は、すごい立面とか、インパクトのある空間という評価では計れない、患者に対するやさしさ、建物の居心地の良さが伝わってくる優れた作品だと思いました。
 最初に見た時には、昨年より少しレベルダウンしているかと思ったのですが、全体を一つ一つよく見ると、建築の身体性、ディテール、材料へのこだわり、ビッグスケールの建築に対するスタンスは根っこのところで、上がっていると思いました。
(新居 千秋)

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