第42回 一般部門 入賞

所在地 :長野県塩尻市
 建物につけられた名の通り、敷地西側から望む塩尻市街さらにその奥に展開する北アルプスの雄大な景色をそのまま日常の生活景として取り込んだ建物である。低く抑えた端正な外観とは裏腹に、住宅内部は大地のうねりのような構造コアを兼ねた壁体によって空間が区画され、同時にその伸びやかな壁体の力線はそのまま室内空間のシークエンスを表現している。西側のリビング平面のうねりは天井面の高さに呼応するように高低の変化を見せ、生活機能を分節し、同時に一体の生活空間として連続させている。この空間の連続・非連続の経験は斬新で面白いが、北アルプスのパノラマ的な風景をリビングの座席から眺めると水平方向に遮るものはなく、実に壮観である。
 加えて西側(リビング側)の傾斜する天井面は必ずしも意匠的な効果のみを狙ったものではない。長大な横長窓に吹きつける強い西風の風圧力を構造コアに伝達するための斜材がその骨組みを構成している。さらに斜めの天井裏側に現れた大きな気積は西日の入射に対するバッファーゾーンとして機能し、夏期期間中の熱だまり対策ともなっている。
 建物そのものも1/3ほど埋め込み、土による断熱効果を期待しているが、寧ろGL面が窓面の下端にまで迫り上がって広がる庭の感じを視覚的な効果として評価すべきであろう。さらに北アルプスのパノラマ的な風景を生活の隅々まで愉しむ工夫は二階に設置された風呂場にも及ぶ。二階部分に穿たれた大きな窓は湯船に浸かりながら雄大な景色を見るためのピクチャーウィンドウともなっている。
 加えて、これらの建築空間を実現させるための地元の工務店の技術力も評価が高い。室内の天井面は全て角度が違う部材が立体的に交差しながらコアの壁面あるいは20mに及ぶ西側水平窓の上端に正確に施工されて破綻がない。建築家の新しい住空間の可能性への探求心と施工者の技術力が結晶した秀作である。
(熊澤 栄二)
主要用途 住宅
構  造
木造、鉄筋コンクリート造
階  数 地上1階
敷地面積
494.04 u
建築面積 119.24 u
延床面積 119.24 u
設計者 一級建築士事務所ライフアンドシェルター社
 松野 勉・相澤 久美
施工者 大蔵木工合名会社
 常務取締役 大蔵 俊介

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