所在地 : 愛知県海部郡美和町

 建物は間口12.5m、奥行き35mの南北に細長い、俗に「鰻の寝床」と呼ばれる典型的な町家型の敷地に建ち、南面がやや交通量の多い道路に面し、周囲には商業ビルや住宅が隣接しており決して良好な環境とは言えない。このような条件から施主と設計者は当初から中庭型住宅を基本的な考えとしており、そこには伝統的な町家にみられる先人の知恵と工夫が生かされている。
 間口の狭い町家においては、正面道路に面して車庫を取らざるを得ないが、 7.5mも後退して前庭を造って緑が植えられ、建物全体は淡いクリーム色で統一されており、東面の隣家境に奥まで連続する「防火壁」も同色の柔らかい質感の地元産タイルを貼るなど、閉鎖的になりがちな正面性を和らげ、道行く人に安らぎを与えている。道路から玄関、そして、二階への階段へと奥まで細長く続く求心性のあるアプローチは、町家にみられる「通り土間」を感じさせ、その突き当たりには「台所」、そして奥には「風呂・便所」が配される。これらの部屋は日照の少ない北側に位置するため、階段と台所上部には天空光を取り入れた「天窓」が設けられ、北側両角の二箇所を小さな庭にして外部からの光や風を採り入り込み、緑の眺められる「坪庭」としている。 家の中心になる「居間」は天井も高く広々としており、南面を開放的に全面ガラス戸とし、室内に居ながらにして光や風や緑を運んでくれる「中庭」へと連なる。居間と中庭境の曖昧模糊としたタイル張りの土間は、内でもなく外でもない旧来の「縁・土庇」を感じさせる。現在、中庭は全てを木製デッキとし、一部にアクセントとなる樹木が植えられ、小さな子供達が走り回れる自然空間になるが、20年の時を経た頃には木も腐り、今以上に緑豊かな庭を求める年齢となであろう。その時は和風洋風どのような庭園とするのか、思い浮かべるだけでも楽しみだ。
「温故知新」、この家は日本の伝統的町家の知恵と工夫がふんだんに取り入れられた家と庭づくりであり、自然の「光・風・緑」を考慮した現代版町家として高く評価される。

( 上野 幸夫 )
主要用途 住宅
構  造
鉄筋コンクリート造
階  数 地上 2階
敷地面積
435u
建築面積
237u
延床面積
275u
設計者 株式会社 GA設計事務所
施工者 株式会社 三興組

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