所在地 : 岐阜県岐阜市島田西町75
 岐阜市の中心街の住居地域に幼稚園の付属施設として、この絵本館がある。戦前の区画整理によりお寺(敷地)の真中に道路が走り、まもなく大戦。戦火で寺は焼失し、住職家族は半数が戦死、残された遺族(母親と子供)が焼土の中、寺の再建に懸命に生きていく。終戦後の日本人の大半が味わされた苦労がここにもあった。8人兄弟の7番目(現理事長)が寺を嗣ぎ、そのなかで童話の語り部のボランティアから始まり、幼稚園を起し現在に至るという波乱に満ちた物語である。
 創立50周年の記念事業としてこの絵本館は建てられた。理事長さんが子供の頃、大好きだった祖母がお話をしてくれた昔話や、買いためてくれた童話の本を読みふけった想い出の2畳部屋のあった場所の記憶からこの2畳の間を空間の核として設計されている。理事長さんの70有余年の人生、そして彼の幼児教育理念の延長線上にこの絵本館はあり、寺や幼稚園の歴史を受け継ぎ、次の世代へつなげる「記憶の継承」の場になっていると考えられる。きっと施主と設計者とは充分にこの想いを話合い、空間化すべくコンセプトをつくり上げていったのであろう。
 街なかでありながら門塀をつくらず開放性を大切に2本の高木をシンメトリーに正面に植え、外部空間にやわらかなシンボル性をもたせている。
 建物は寺の宗教性や幼稚園の歴史からくる精神性記念性を具現化する手法としてシンメトリーを採用している。シンメトリー空間は権威や象徴性が勝つ事が多いがここにはそれを感じさせない穏やかさがある。動(幼稚園)と静(絵本館)そして建物内部での動(保育室)と静(読書室)を2畳の間(記念性)を核として造り上げ、硬くなりがちなシンメトリー空間を桐の板を主要材料に使った木造りと吹抜け上部より降り注ぐ自然光とあいまってやわらかさ、暖かさを見事に空間化している。
 各々の室(空間)の中で子供達がお話に聞き入っている情景や、勝手気ままに絵本を読んでいる姿が充分想像出来、施主のやさしい人柄と想いを建築家が受け止め、見事に空間表現した気持の良い小品である。
( 近 藤 一 郎 )
主要用途 絵本観覧、読み聞かせ館
構  造
木造
階  数 地上 1階
敷地面積
674.27u
建築面積
270.56u
延床面積
321.73u
建築主 学校法人 加納学園  こばと幼稚園
設計者 仙田 満+環境デザイン研究所
施工者 東建設工業株式会社

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