第31回 中部建築賞 入選・入賞 作品選評

審査総評
 今年は不況の影響で、応募作品点数が例年より少なくなるかとの、事務局の懸念も、100点を越える応募作品を前に、不況も関係ない例年通りの、中部建築賞の作者名を伏せた書類選考からの審査、委員が手分けをして実態を見聞する審査の後、全員の1件ごとの実見報告を聞いた上に十分に議論を交わし、12点の入賞と12点の入選を決定しました。 中部建築賞は、愛知、岐阜、静岡、三重の所謂中部各県に、長野、滋賀、そして北陸の石川、富山、福井の三県を加えた、計九件のエリアが対象地域になっています。応募はそれぞれ単独に直接されているものと思っていましたが、今回富山県に始めて審査に行き、建築士会の役員の方から伺った話で、富山建築士会では県の賞との関係もあって、全応募作品の上位何点かを、中部建築賞応募作品として毎年送られていると聞きました。各県で応募点数の多少の凹凸があっても全く気にもせず、できる限り全体を対象に公正な視点で、各審査員が推奨するべき作品の広い出しから審査を始めるのですが、富山県のような例が他にもあるのかも知れません。だからどうしようというのではありませんが、選考のルールとしては、各県ができるだけ同過程を経る方が望ましいように思います。各会の県単位会などでのご検討やご意見をいただければと存じます。
 ところで富山県建築士会の話は、中部建築賞を始め、建築の賞に対する県下の関心が強いことを反映しているようにも思われます。建築の賞は、学会賞や新人賞などとくに設計者の顕彰が中心で、建築ジャーナリズムも受賞設計者に関心が集中しますが、本来、建築の賞が、設計者以外の建築の建て主や、利用者までも含めた社会の関心を呼ぶようになることが大切なことと思われます。景観や環境に、建築は重要に関わり、建築に対する市民の関心が薄い現状が変わらなければ、建築の文化は発展しません。建築が見た目の豪華さや立派さを競ったり、機能の高度化ばかりに目を向けたり、建てた後の予算や人材のフォローには全く熱がないことなどを脱却するためにも、これからの建築の企画、設計、施工、運営維持管理に、旧来の慣習を考え直し、改革を志すような建築にこそ、賞が機能できればという願いが、今回の中部建築賞において議論されてきたように思います。
(坂田 誠造)

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