賢島ミキハウス荘

所在地 :三重県志摩郡阿児町神明字寺川原764-69
 敷地は賢島カントリクラブのゴルフ場に、道路を介し向き合う隣接関係の場所にある。建蔽率も建物高さも、制限が厳しく課された国立公園地域内の敷地の、細かく起伏した地形に中木程度の樹木が密生するなかに、建築全体が外部の住空間の広いテラスとともに、地面にそっと据えられ納まっている。建て主は著名な子供服メーカーの会社オーナーであり、設計者・施工者は、本社屋ビルや工場などを続けて造ってきた、互いに気心が通じる信頼の絆に結ばれた関係にあるという。これは最善の発注者・設計者・施工者の関係であり、この保養施設が極めて優れた建築であるのは、それぞれが最善の建築を求めて刺激し合い、高めあった結果でもあるからだ。
 道路からは、この建築は目立たずかなり小さく見える。しかし中に入ると、意外な広さ、大きさに気付くことになる。「草の生い茂った大地のような屋根」のイメージから造られた屋根を始め、建築はその存在を〈消去〉する意図のもとに、輪郭を柔らかくぼかし、コンクリート打ち放し壁を出目地のテクスチャーが、時間存在のきめこまかい演出を表現する。建築を消去するイメージは、透過性や映像利用など今日的感性の流行的現れとも思われるが、緑化が重要な国立公園の景観構成、断熱など省エネと環境問題の重合など、現下の社会的建築課題を踏まえた上での設計・施工の工夫や挑戦がなされていることに注目させられる。設計者、施工者がそれぞれに競い合って、よりよい建築を目指して懸命に努力した結果が、実際に見て空間体験をする中で強く伝わってくるのを感じた。写真よりも実物は、目のみならず触感もなかなか魅力的な建築の内外空間がつくられていた。屋根の芝もしっかり根を張って足触りも心地よく、現代の草屋根が十分成立する証しを見る思いであった。
(阪田誠造)
構  造
鉄筋コンクリート造
階  数 地上2階 地下1階
延面積 
439.03u
 管理建築士 佐々木研一
建築主  三起商行株式会社
 社長 木村皓一
設計者  株式会社 竹中工務店
 大阪本店
 柏木浩一 角田暁治
 株式会社
 エム・プロジェクト
 社長 高水章光
施工者  株式会社 竹中工務店
 大阪本店 本店長 添野建一

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